2017/06/03

字典「𦣞(𦣝)」

「𦣞」

釋義

金文

用例は少なく、固有名詞にしか用いられていない。
  1. 名:人名。族名。
    𦣞
    𦣞觚,《銘圖》09037;商晩

    鑄子弔(叔)黑𦣞肈乍(作)寶盨。
    鑄子叔黑𦣞盨,《銘圖》05607-05608;春早
  2. 名:姓。=姬
    魯白(伯)愈父乍(作)鼄(邾)𦣞(姬)仁𦨶(媵)𬐿(沬)盤。
    魯伯愈父盤,《銘圖》14448;周晩

    黄子乍(作)黄甫(夫)人孟𦣞(姬)器則。
    黄子鬲,《銘圖》02844;春早

楚簡

用例は「頤」が《周易》に用いられているのみ。
  1. 名:卦の一つ。
    :貞吉。觀,自求口實。
    上博三《周易・頤》24

秦簡

用例は「頤」が《日書・黄鐘》に用いられているのみ。
  1. 名:あご。おとがい。下あご。
    兑(鋭)顔,兑(鋭),赤黑,免(俛)僂,善病心、腸。
    放馬灘《日書》乙種《黄鐘》206

釋形

郭沫若は「頤」の初文で顎の象形、于省吾は「䇫」の初文で梳き櫛の象形、白川静は乳房の象形としている中で、于省吾の説がほぼ定説となっている(近年、蔣玉斌《甲骨文待登録字“𦣞”“巸”釋説》が発表されたが未見、下顎と歯の象形としているようである)。
殷墟甲骨文に「𦣞」の用例はないが、これを偏旁として含む「姬」字が見られる。後代の出土文字資料も同様に「𦣞」の用例は少ない一方で「姬」は多く見られる。
《説文》では「頤」が「𦣞」の異体字とされているため、習慣的に「𦣞」「頤」を同一字種として扱うことがある。「頤」は隷書楷書ではさまざまな字形が見られる。「顊」は《康煕字典》では「頤」とは別字種として扱われている。

釋詞

「巸」声字と「喜」声字は音義とも近く、同源と考えられる。

  • 《説文》五篇上《喜部》「喜,樂也。」(96下)
  • 《方言》卷十「紛怡,喜也。湘潭之間曰紛怡,或曰巸巳。
  • 《尚書・堯典》「庶績咸熙。」、《文選・劇秦美新》「庶績咸喜。
  • 《説文》十二篇下《女部》「媐,說樂也。」(262下)
  • 《玉篇》卷二十一《火部》「熹,熱也,烝也,炙也,熾也。亦作“熈、暿”。」(390)

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