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2017/06/15

字典「㠯(以)」

「㠯」

釋義

甲骨文

殷代における「㠯(以)」字の用法は広いが、おおむね現在と同様の意味である。
  1. 動:もちいる。 ひきいる。
    前:もって。~によって。~をひきいて。
    《合集》31977;歷二
    ①辛亥,貞: [⿱匕鬯]㠯(以)衆灷,受又(佑)?
    《合集》35356;黄二
    ②乙丑卜,貞:王其又升于文武帝裸,其㠯(以)羌,其五人正,王受又〓(有佑)?
  2. 動:もたらす。もってくる。献上する。
    《合集》33191;歷二
    ①癸亥,貞:厃方㠯(以)牛,其登于來甲申?
    《合集》93正;賓一
    ②己丑卜,㱿貞:即芻,其五百隹,六?
  3. 動:祭祀名。 
  4. 《合集》32848;歷二
    ①辛巳,貞:㠯(以)伊示?
    《合集》32543;歷二
    ②庚寅,貞:王米于囧㠯(以)祖乙。
  5. 接:および。並びに。
    《合集》21562;子組
    ①庚辰,令彖隹來豕㠯(以)龜二,若令?
    《合集》33278;歷二
    ②辛酉,貞:王令○㠯(以)子方奠于并。

金文

金文における「㠯(以)」字の用法はとても広く、分類の難しい用例もある。
  1. 動:ひきいる。引き連れる。
    小子[⿱夆囧]卣,《銘圖》13326;商晩
    ①子令小子[⿱夆囧]㠯(以)人于堇。
    小臣𬣆簋,《銘圖》05269-05270;周早
    ②白(伯)懋父㠯(以)殷八𠂤(師)征東尸(夷)。
    師訇簋,《銘圖》05402;周晩
    ③率㠯(以)乃友干(捍)䓊(禦)王身。
  2. 前:もって。~で。~によって。
    鼓䍙簋,《銘圖》04988;周早
    ①王令東宮追㠯(以)六𠂤(師)之年。
    衛姒鬲,《銘圖》02802;周晩
    ②衛㚶(姒)乍(作)鬲,㠯(以)從永征。
    曾伯漆簠,《銘圖》05980;春早
    ③余用自乍(作)[⿺辶旅](旅)𠤳(簠), 㠯(以)㠯(以)行,用盛稻粱。
  3. 前:もって。~によって。~にもとづいて。「是以」
    虢季子白盤,《銘圖》14538;周晩
    ①折首五百,執訊五十,是㠯(以)先行。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ②氏(是)㠯(以)賜之氒(厥)命。
  4. 前:もって。~をひきいて。ともに。=與
    麥尊,《銘圖》11820;周早
    ①王㠯(以)𥎦(侯)内(入)于𡨦(寢)。
    虢仲盨蓋,《銘圖》05623;周晩
    ②虢中(仲)㠯(以)王南征,伐南淮尸(夷)。
    食仲走父盨,《銘圖》05616;周晩
    ③走父㠯(以)其子〓孫〓寶用。
  5. 前:もって。~を。~に対して。
    師旂鼎,《銘圖》02462;周中
    ①吏(使)氒(厥)友引㠯(以)告于白(伯)懋父。
    曶鼎,《銘圖》02515;周中
    㠯(以)匡季告東宮。
    𠑇匜,《銘圖》15004;周中
    ③乃師或㠯(以)女(汝)告。
  6. 接:もって。そして。それで。
    善夫山鼎,《銘圖》02490;周晩
    ①受册,佩㠯(以)出。
    晋侯蘇鐘,《銘圖》15307-15308;周晩
    ②𩵦(蘇)𢱭(拜)𩒨(稽)首,受駒㠯(以)出。
    中山王鼎,《銘圖》02517;戰中
    ③含(今)𫊣(吾)老賈,親率曑(三)軍之眾,㠯(以)征不宜(義)之邦。
  7. 接:および。並びに。=與
    夨令尊,《銘圖》11821;周早
    ①爽𬢚(左)右于乃寮㠯(以)乃友事。
    大克鼎,《銘圖》02513;周中
    ②田于[⿰⿱田山夋](峻),㠯(以)氒(厥)臣妾。
    大簋蓋,《銘圖》05345;周晩
    ③余弗敢𫿣(吝), 豖㠯(以)𬑪(睽)[⿰舟頁](履)大易(錫)里。
  8. 助:場所や時間の範囲を示す。のみ。
    散氏盤,《銘圖》14542;周晩
    ①眉(堳)自𬉄(瀗)涉㠯(以)南,至于大沽(湖)。
    新郪虎符,《銘圖》19176;戰晩
    ②用兵五十人㠯(以)上,[必]會王符。

楚簡

用例が多く、用法も広い。代表的なものを示す。
  1. 前:もって。~で。~によって。
    包山《集箸言》144
    ①小人信㠯(以)刀自㦹(傷)。
    郭店《老子甲》3
    ②其才(在)民上也,㠯(以)言下之。
    清華貳《繋年》第十一章59
    㠯(以)女子與兵車百𨌤(乘)。
  2. 前:もって。~によって。から。
    包山《疋獄》99
    㠯(以)亓(其)反(叛)官,自䜴(屬)於新大[⿸厂⿰飠攵](廐)之古(故)。
    上博七《鄭子家喪》甲本6
    㠯(以)子家之古(故)。
    清華貳《繋年》第十八章103
    ③至今齊人㠯(以)不服于晉。
  3. 前:もって。~のときに。時間を表す。
    包山《疋獄》90
    㠯(以)甘𠤳(固)之𫻴(歲)。
    包山《集箸言》132
    㠯(以)宋客盛公[⿰畀臱](邊)之𫻴(歲)[⿰⿱井田刃](荆)𫵖(夷)之月癸巳之日。
    包山《集箸言》145反
    㠯(以)八月甲戌之日。
  4. 前:もって。~をひきいて。ともに。=與
    包山《集箸》2
    ①魯昜(陽)公㠯(以)楚帀(師)𨒥(後)𩫨(城)奠(鄭)之𫻴(歲)。
    上博四《昭王毀室》5
    ②卒㠯(以)夫〓(大夫)㱃〓(飲酒)於坪澫。
    清華貳《繋年》第十九章106
    ③吴縵(洩)用(庸)㠯(以)帀(師)逆[⿰㣇阝](蔡)卲(昭)侯。
  5. 前:もって。~を。~に対して。
    包山《集箸》159
    ①罼(畢)紳命㠯(以)[⿰𪰊頁](夏)[⿺辶各](路)史、[⿺辶舟]史爲告於少帀(師)。
    上博二《容成氏》10
    ②堯㠯(以)天下襄(讓)於臤(賢)者。
    清華貳《繋年》第六章35
    ③秦穆公㠯(以)亓(其)子妻之。
  6. 接:もって。そして。それで。
    包山《受幾》22
    ①不諓(察)[⿱陳土](陳)宔(主)[⿰角隼](顀)之[⿰昜刂](傷)之古(故)㠯(以)告。
    上博六《莊王既成》1
    㠯(以)昏酖(沈)尹子桱。
    清華貳《繋年》第十六章90
    ③厲公亦見𧜓(禍)㠯(以)死,亡𨒥(後)。
  7. 接:もって。~ので。~のために。
    包山《疋獄》93
    ①𨛡(宛)人𨊠(範)紳訟𨊠(範)駁,㠯(以)亓(其)敓亓(其)𨒥(後)。
    清華壹《金縢》12
    ②今皇天[⿺辶童](動)畏(威),㠯(以)章公惪(德)。
    清華貳《繋年》第十三章63
    ③楚人被[⿱加車](駕)㠯(以)追之。
  8. 助:場所や時間の範囲を示す。のみ。
    上博二《容成氏》27
    ①㙑(禹)乃從灘(漢)㠯(以)南爲名浴(谷)五百。
    上博六《競公瘧》10
    ②自古(姑)、𧈡(尤)㠯(以)西,翏(聊)、𡥨(攝)㠯(以)東

釋形

人が物を持っている形。「携える」「持ってくる」の意味を表している。
殷村南派や周代には右部を省略した略体が用いられ、これが楷書の「㠯」の起源となっている。戦国時代秦国では略体に再び「人」を加えた字体が作られ、これが楷書の「以」の起源となっている。

古くは甲骨文の繁体について「氏(致)」「氐」字と釈す説が主流であった。また「㠯」の起源となった字体は「耜」の初文で農具の象形と考えられていた(徐中舒)。しかし、《合集》277と《合集》32023の対比などにより、「氏」「氐」と考えられていた字体と「㠯」とが繁簡関係にある同一字種であると指摘され、上記の旧説が否定された(島邦男、王貴民、林澐、裘錫圭等)。

釋詞

「㠯」声字は「台」声字や「矣」声字などを含み非常に数が多い。「能」声字を同源とする説もある。


2017/06/03

字典「𦣞(𦣝)」

「𦣞」

釋義

金文

用例は少なく、固有名詞にしか用いられていない
  1. 名:人名。族名。
    𦣞觚,《銘圖》09037;商晩
    𦣞
    鑄子叔黑𦣞盨,《銘圖》05607-05608;春早
    ②鑄子弔(叔)黑𦣞肈乍(作)寶盨。
  2. 名:姓。=姬
    魯伯愈父盤,《銘圖》14448;周晩
    ①魯白(伯)愈父乍(作)鼄(邾)𦣞(姬)仁𦨶(媵)𬐿(沬)盤。
    黄子鬲,《銘圖》02844;春早
    ②黄子乍(作)黄甫(夫)人孟𦣞(姬)器則。

楚簡

用例は「頤」が《周易》に用いられているのみ。
  1. 名:卦の一つ。
    上博三《周易・頤》24
    ①䷚:貞吉。觀,自求口實。

秦簡

用例は「頤」が日書・黄鐘》に用いられているのみ。
  1. 名:あご。おとがい。下あご。
    放馬灘《日書》乙種《黄鐘》206
    ①兑(鋭)顔,兑(鋭)頤,赤黑,免(俛)僂,善病心、腸。

釋形

「䇫」の初文で、梳き櫛の象形(于省吾)。
なお、殷墟甲骨文に「𦣞」の用例はないが、これを偏旁として含む「姬」字が見られる。後代の出土文字資料も同様に「𦣞」の用例は少ない一方で「姬」は多く見られる。郭沫若は顎の象形、白川静は乳房の象形とするが、いずれも金文の字形からの誤釈と考えられる。
《説文》では「𦣞」が「頤」の初文とされているため、習慣的に「𦣞」「頤」を同一字種として扱うことがある。「頤」は隷書楷書ではさまざまな字形が見られる。「顊」は《康煕字典》では「頤」とは別字種として扱われている。

釋詞

「巸」声字と「喜」声字は音義とも近く、同源と考えられる。

  • 《説文》五篇上《喜部》「喜,樂也。」(96下)
  • 《方言》卷十「紛怡,喜也。湘潭之間曰紛怡,或曰巸巳。」
  • 《尚書・堯典》「庶績咸熙。」、《文選・劇秦美新》「庶績咸喜。」
  • 《説文》十二篇下《女部》「媐,說樂也。」(262下)
  • 《玉篇》卷二十一《火部》「熹,熱也,烝也,炙也,熾也。亦作“熈、暿”。」(390)

2017/06/01

字典「負」

「負」

釋義

金文

金文の「負」字は戦国晩期の兵器に一例あるのみである。
  1. 「負陽」:地名。
    負陽令戈,《銘圖》17199;戰晩
    ①十二年,負陽命(令)□雩,工帀(師)樂休,冶□。
また負黍令韓譙戈(《銘圖》17178-17180)は地名「負黍」を「[⿱付臣]余」とする。

楚簡

楚簡に「負」字は用いられていない。
上博三《周易・睽》33「見豕[⿱伓貝](負)𡌆(塗)」、同《周易・解》37「[⿱伓貝](負)𠭯(且)𨍱(乘)。」、今本《周易》が「負」とするところを上博簡は「⿱伓貝」に作る。

秦簡

法律文書では「負う」「償う」の用例が多く見られる。
  1. 動:おう。背負う。背中に物を載せる。
    睡虎地《秦律雜抄》11
    ①吏自佐、史以上從馬、守書私卒,令市取錢焉,皆䙴(遷)。
    嶽麓貳《數・衰分類算題》137
    ②一人米十斗,一人粟十斗,食十斗。
  2. 動:おう。責任、債務をもつ。
    睡虎地《秦律十八種・司空》136
    ①作務及賈而責(債)者,不得代。
    嶽麓壹《占夢書》9貳
    ②夫妻相反者,妻若夫必有死者。
  3. 動:つぐなう。賠償する。
    睡虎地《秦律十八種・倉律》23
    ①其不備,出者之;其贏者,入之。
    睡虎地《秦律十八種・效》174
    ②羣它物當賞(償)而僞出之以彼賞(償)。
  4. 名:つま。=婦
    睡虎地11號木牘反Ⅵ
    ①驚多問新負(婦)、妴得毋恙也?
    睡虎地6號木牘正Ⅴ
    ②驚多問新負(婦)、妴皆得毋恙也?
  5. 名:えびら。矢筒。=箙
    嶽麓貳《數・衰分類算題》132
    ①卒百人,戟十、弩五、三,問得各幾可(何)?
    嶽麓貳《數・衰分類算題》133
    ②述(術)曰:同戟、弩、數,以爲法。

釋形

「人」と「貝」に従う。戦国晩期以前には見られない。「府」の戦国時代に見られる異体字には「𢊾」「⿱付貝」「⿸广負」等があり、「負」は「⿱付貝(府)」から分化した字と思われる(黄德寬)。
南北朝~唐代には説文小篆を楷書化したものとして上部を「刀」とした字体が用いられたが、《五經文字》には「負」が採用された。

釋詞

「負」「背」「倍」は音義とも近く通仮例があり、同源である。
  • 《釋名・釋姿容》「負,背也,置項背也。」
  • 《史記・酈生陸賈列傳》「項王負約不與。」,《漢書・酈陸朱劉叔孫傳》「項王背約不與。」
  • 《釋名・釋形體》「背,倍也,在後稱也。」
  • 馬王堆《老子》甲本《道篇》126「民利百負。」、同乙本233下「民利百倍。」
否定の意志→「そむく」→「負う」という語義展開が考えられる。

2017/05/28

字典「某」

「某」

釋義

金文

用例が少ないが、全て「謀」の意味に用いられる。
諫簋と笰傳盉について「無」あるいは「」と読み否定の意味とする説もある(郭沫若、楊樹達、裘錫圭)。
  1. 動:はかる。くわだてる。計画する。=謀
    禽簋,《銘圖》04984;周早
    ①王伐𬃚(蓋)𥎦(侯),周公某(謀),禽𬒯(祝)。
    諫簋,《銘圖》05336;周中
    ②女(汝)某(謀)不又(有)聞(昏),母(毋)敢不譱(善)。
    笰傳盉,《銘圖》14795;周中
    ③余某(謀)弗[⿱爯又](稱)公命。

楚簡

楚簡では人名の用例が多い。また遣策簡には「梅」の用法が見える。
  1. 代:なにがし。それがし。ある人。
    九店《告武夷》43
    ①含(今)日𨟻(將)欲飤(食),敢㠯(以)亓(其)妻□妻女(汝)。
    清華壹《祝辭》1
    ②句茲也發陽(揚)。
  2. 名:うめ。=梅
    信陽《遣策》21
    ①一垪(瓶)某(梅)𨟻(醬)。
    包山《遣策》255
    ②[⿳宀⿰必必甘](蜜)某(梅)一[⿰缶土](缶)。
  3. 名:姓。=梅
    曾侯乙《乘馬》143
    ①某[⿳艸二艸]之黄爲右[⿰馬𤰇](服)。
    包山《集箸》13
    ②某(梅)瘽才(在)漾陵之厽(三)鉩(璽),[⿵門⿰夕刀](間)御之典匱。
    包山《所屬》193
    訓。
  4. 名:地名。
    葛陵甲三367
    ①某丘一冢。
    葛陵甲三403
    ②[⿰既刂](刏)於𬏄丘、某丘二〼。

釋形

「甘/口」と「木」に従う。《説文》六篇上《木部》「某,酸果也。」段注「此是今梅子正字。」とあり、「楳(梅)」の初文。
先秦文字では「甘」旁と「口」旁はしばしば区別されない。先秦文字の字形は「呆/杲/𣏼/某」形の4種に分けられるが、漢代以降は「某」形が残った(ただし説文小篆は「杲」形)。漢~南北朝代は縦画が上部まで伸びた形が常用されたが、唐代には「其」の下部を「小」に換えたような字体が一般的となった。《康煕字典》は説文小篆を模倣した字体を掲出する。
「牟」の略体「厶」を借りる用法が特に仏教系の写本には多く見られる。

釋詞

「某」と「母」は同音である(《廣韻》莫厚切)。また「某」声と「母/毎」声は互いに通用し、両字は同源と考えられる。

  • 《集韻》平聲《灰韻》謀杯切「梅,或作“楳、某、槑”。」(231)
  • 《説文》三篇下《言部》「謀,慮難曰謀。𠰔,古文謀。𧦥,亦古文。」(46下)
  • 《禮記・中庸》「人道敏政,地道敏樹。」鄭玄注「敏或爲謀。」

張建銘は以下の諸字を同源とし「始まり、兆し」の意味があるとする。
  • 腜,《説文》四篇下《肉部》「婦孕始兆也。」(81下)
  • 媒,《説文》十二篇下《女部》「謀也。謀合二姓者也。」(259下)
  • 謀,《説文》三篇下《言部》「慮難曰謀。」(46下)

2017/05/26

字典「不」

「不」

釋義

甲骨文

「亡」「勿」「弗」などとともに否定詞として用いられる。特に「弗」と用法が近いが、自動詞や「雨」「風」などの天候動詞に対しては「不」が用いられる。また可能性を否定するニュアンスがあり、「~できない」「~ではない」のような意味のときは「不」が用いられやすい。
  1. 副:ず、あらず。否定詞。
    ①甲戌卜:今日雨,雨?
    《屯南》82

    ②丙子卜,韋貞:我其受年?
    《合集》5611正
  2. 助:…か、いなや。疑問語気詞。文末に置かれる。=否
    ①乙□卜,[⿻大匚]:㞢(侑)妣己二羊二豕
    《合集》19883

    ②乙巳卜:今日方其至
    《合集》20410
  3. 名:人名。賓組卜辞に現れる。
    ①貞:子其㞢(有)疾?
    《合集》14007

    ②□寅卜,韋貞:御子
    《合補》1966
  4. 名:方国名。=邳?
    ①庚申卜,王貞:余伐
    《合集》6834正

    ②……三人于中,宜𫳅?
    《合集》1064
  5. 「不用」:用辞の一つ。その占卜が用いられなかったことを表す。
    ①辛酉貞:癸亥又(侑)父丁歲五牢?不用
    《合集》32665
  6. 「不若」:よくない。よくないこと。災い。
    ①甲申卜,争貞:王㞢(有)不若
    《合集》891正

    ②……我勿巳賓,乍帝降不若
    《合集》6497
  7. 「不[⿱幺才]鼄」:兆辞の一つ。意味はわかっていない。

金文

甲骨文同様、否定詞としての用法が多く見られる。決まり文句の多い金文では「不○」といった成語化した詞も多い。
  1. 副:ず、あらず。否定詞。
    ①十枻(世)[⿰𦣠言](忘)。
    獻簋,《銘圖》05221

    ②師㝨虔㒸(墜)。
    師㝨簋,《銘圖》05366-05367

    ③叀(唯)王龏(恭)德谷(裕)天,順(訓)我每(敏)。
    何尊,《銘圖》11819

    井(型)中……毋敢井(型)。
    牧簋,《銘圖》05403
  2. 助:…か、いなや。疑問語気詞。文末に置かれる。=否
    ①女(汝)𧵒(賈)田不(否)
    五祀衛鼎,《銘圖》02497
  3. 形:大きい,「不顯」「不𫠭」。=丕
    不(丕)巩(鞏)先王配命。
    毛公鼎,《銘圖》02518

    不(丕)顯考文王。
    天亡簋,《銘圖》05303

    ③對揚天子不(丕)𫠭(丕)魯休。
    師𡘇父鼎,《銘圖》02476
  4. 名:人名,「子不」。人名用字,「不壽」「不𡢁」。
  5. 名:国名。=邳
    ①不(邳)白(伯)夏子自乍(作)𬯚(尊)罍。
    邳伯夏子缶,《銘圖》14089-14090
  6. 「不廷」「不廷方」:朝廷に出ない国。=不庭
    ①𨨋(鎮)静(靖)不廷
    秦公簋,《銘圖》05370

    ②率褱(懷)不廷方
    毛公鼎,《銘圖》02518

楚簡

否定詞と「大いに」の用法がほとんどである。
上博四《曹沫之陣》64「𫊟(吾)言氏不。」の解釈は一定しない。上博三《周易・蹇》35「九五:大訐(蹇)不(朋)棶(來)。」、今本は「大蹇朋來」に作り、解釈は一定しない。
  1. 副:ず、あらず。否定詞。
    憖。
    包山《集箸言》15反

    ②民從上之命。
    郭店《成之聞之》2

    ③曷今東恙(祥)不章(彰)?
    清華壹《尹至》3
  2. 形:大きい。大いに。=丕
    ①《君奭》曰:“唯髟(冒)不(丕)單爯(稱)惪(德)。”
    郭店《成之聞之》22

    ②《
    上博一《孔子詩論》6
    剌(烈)文》曰:“乍{亡}競隹(維)人,不(丕)㬎(顯)隹(維)惪(德)。”
    ③遠土不(丕)承。
    清華壹《皇門》6

釋形

《詩經・小雅・常棣》「常棣之華,鄂不韡韡。」鄭玄箋「承華者曰鄂,不當作柎。柎,鄂足也。古聲不、柎同也。」より、「柎」の初文で、花萼の象形とする説が定説となっている(羅振玉、王国維、郭沫若、徐中舒)。
また、「茇」の初文で、根の象形とする説がある(趙誠、于省吾、姚孝遂、陳世輝、何琳儀)。

釋詞

王力は否定詞「不」「否」「弗」を同源詞とする。

張建銘、殷寄明などは以下の諸字を同源とする。「不」には否定詞を除くと「大きい」の義があり、今「丕」声字が多くこれをうけつぐ。
  • 丕,《説文》一篇上《一部》「大也。」(1上)
  • 伾,《説文》八篇上《人部》「有力也。」(160下)
  • 魾,《説文》十一篇下《魚部》「大鱯也。」(243下)
「咅」声字には「増加する」義と「破れる」義が見られる。
  • 倍,《集韻》去聲《隊韻》補妹切「加也。」(531)
  • 培,《廣韻》平聲《灰韻》薄回切「益也。」(98)
  • 陪,《玉篇》卷二十二《阜部》「加也,益也。」(418)
  • 剖,《廣韻》上聲《厚韻》普后切「判也,破也。」(327)
  • 掊,《莊子・逍遙游》陸德明釋文「掊,司馬云:“擊破也。”」
「不」声字には「始まる」「盛りになる」「栄える」義が見られる。
  • 坏,《説文》十三篇下《土部》「丘再成者也。」(290下)
  • 肧,《説文》四篇下《肉部》「婦孕一月也。」(81下)
  • 芣,《説文》一篇下《艸部》「華盛。」(16上)
以上より「大きい」「栄える」等を原義とする(PIE *bhel-に近い)。「芣」は字形との関係も伺える。否定の用法は仮借と考えられる。

2017/02/04

ネット字源説考訂9「殺」

ネット字源

「殺」について

風船あられの漢字ブログ

 『殺(サツ)』shā、shàiは、穀物を刈り取る様子を表す会意文字です(藤堂)。漢字の足し算では、メ(刈り取る)+朮(穀物)+殳(動作)=殺・殺(穀物を刈り取る。そぎ取る。転じて殺す)です。

漢字の音符

 甲骨文は、野生のイノシシを矢で射とめた形の彘テイ(狩りの獲物の猪)の変形した字で、イノシシなどの獣を殺す意。……金文第二字は、「猪などの獣の形+殳(つえぼこ)」の会意。つえぼこで獣を打ちころすこと。篆文は、すっかり形が変わり、「乂(刈る)+术(もちあわ)+殳(動作)」に変化し、もちあわの穂を刈る動作で、殺す意を表した。この突然の変化は、「乂+术」の杀(この字は点がとれた略体)の発音がサツ・セツであり、以前の字と同じ音の字で置き換えたと思われる。

OK辞典

 会意文字です。「猪(いのしし)などの獣」の象形と「手に木の杖を持つ」象形から「ころす・いけにえ」を意味する「殺」という漢字が成り立ちました。

常用漢字論

 殺は「乂+朮+殳」に分析できる。乂は二つの線を×形に交差させた図形で、「切り取る」ことを示す記号に用いられる)。朮はモチアワ(アワの一種)である。殳は動作の符号(動詞記号)。したがって殺は「乂(イメージ記号)+朮(イメージ補助記号)+殳(限定符号)」と解析する。この図形でもって、モチアワの皮を剝ぎ取る場面を設定した。「そぎ取ってばらばらにする」というイメージを表す意匠になっている。

ニコニコ大百科

 諸説ある。〔説文〕は杀(𣏂)声の形声とする。ただ杀は〔説文〕に未収。古文の𢁛が変じたものかも知れない。ほかに☓+殳という字に従い朮声の形声、㣇+殳の会意で、㣇という祟りをなす獣を殺す呪儀で、相手方の呪詛の効力を殺ぐとする説(白川静)などがある。

Wiktionary

 会意。「朮(もちあわ)」を「乂(刃物で刈り取る)」「殳(行為)」。

「乂+朮+殳」で「穀物を刈り取る」さまを表しそこから転じて「殺す」の意味になった、という説が最も多い。他に「(猪などの獣)+殳」で「動物を打ち殺すこと」が原義だという説も見られるが、「猪などの獣」とは何なのか(あるいは何の字なのか)、『漢字の音符』は「彘」の変化した字としているが、『OK辞典』はよくわからない。『漢字の音符』は後代の字体について形が変化したのか新しく作ったのか曖昧な記述になっている。

2017/01/23

ネット字源説考訂8「真(眞)」

ネット字源

「真(眞)」について

風船あられの漢字ブログ

 『真(シン)』zhēnは、本当に中身のある様子を表す会意文字です。漢字の足し算では、ヒ(匙・さじ)+鼎(かなえ・容器)=眞・真(匙で中身をいっぱいにする。充実した。嘘のない。真。まこと)です。

漢字の音符 

 金文は、「ヒ(さじ)+鼎(かなえ。煮炊きの器)」 の会意。鼎で煮炊きした食べ物を匙ですくう形で、鼎のなかに食べ物がいっぱい入っているさまを表す。その中身がいっぱいに詰まっていることから、「ほんもの」「まこと」の意味に仮借カシャ(当て字)された。篆文から眞の形になり、新字体は、さらに真に変化する。

OK辞典

 会意文字です(匕+鼎)。「さじ」の象形と「鼎(かなえ)-中国の土器」の象形から鼎に物を詰め、その中身が一杯になって「ほんもの・まこと」を意味する「真」という漢字が成り立ちました。

常用漢字論

 金文に遡ると「匕+鼎」と分析できる。スプーンで鼎に素材を入れる情景を設定したのが眞である。この図形的意匠によって「中に詰め込む」「中身が詰まる」というイメージを表すことができる。

いずれのサイトも「匕+鼎」で、「中身がいっぱい」から「真実」の意味になったとしている。

2017/01/05

ネット字源説考訂7「黒(黑)」

ネット字源

「黒(黑)」について

風船あられの漢字ブログ

 『黒(コク)』heiは、煤(すす)を集めて墨(すみ)を作る様子を描いた漢字です。煤(すす)の原料は松(まつ)、菜種油(なたねあぶら)などが使われます。松、菜種油などを燃やして煤(すす)を取り、膠(にかわ)と混ぜて墨(すみ)を作るのです。この墨の色が黒です。

漢字の音符

 金文・篆文の下部は火二つで、その煙が通る煙突に点々と煤のついたさまを表わす。黒いすす、すなわち黒の意。

OK辞典

 象形文字です。上部は「煙出しに煤(すす)が詰まった」象形、下部は「燃えあがる炎」の象形です。すすの色が黒い事から、「くろい」を意味する「黒」という漢字が成り立ちました。

常用漢字論(《漢字語源語義辞典》略同)

 黑は「𡆧+炎」と分析すべきである。𡆧は煤が点々とついた竈あるいは煙突の形である。単独に存在する字ではない。これに炎を合わせた黑は、火を燃やした後に煤が生じる情景を設定した図形である。

いずれのサイトも「炎」と煙突の象形を組み合わせたもので、原義は「すす」だとしている。

2016/12/23

ネット字源説考訂6「敢」

ネット字源

「敢」について

風船あられの漢字ブログ

 漢字の足し算で表すと手+甘(口に含む)+攵(動作・払う)=敢(封じ込まれた状態を手を使って払う。敢(あ)えて~する)です。
 甘は『口に含む』の意味があります。甘に手と攵(動作・払う)を足すと『含む』から『敢(あ)えて~する』という意味になります。

漢字の音符

 金文と篆文第一字は、「古(ふるい)+上の手+下の手」の会意。古は、祭礼の祝詞(神への祈り言葉)を入れた器を盾で大事に守るかたち。これに上下の手をつけた敢カンは、大事に守る器を両手であえて開けようとすること。今までの慣例にこだわらず、あえてする意となる。

OK辞典

 会意文字です(又+又+占の変形)。「口」の象形と「占いの為に亀の甲羅や牛の骨を焼いて得られた割れ目を無理矢理、両手で押し曲げた」象形から、道理に合わない事を「あえてする」を意味する「敢」という漢字が成り立ちました。

常用漢字論(《漢字語源語義辞典》略同)

 甘は「中に含む」というイメージがある。これは「枠の中に封じ込める」というイメージに転化する。「爪+又」は両手である。両手の間に丿の符号を入れて、両手で力をこめて何かを引き合う情況を示す。かくて「甘(音・イメージ記号)+爪+丿+又(三つでイメージ補助記号)」を合わせて、封じ込められた枠をはねのけようと、強い力をこめる情況を暗示させる。

杓で酒を汲む象形という白川の説も含めて皆バラバラである。しかし、解字が異なるものの「手で開ける」の部分は4サイトともおおむね似ている。『OK辞典』は「又+又+占の変形」という解字とその後の説明が合ってない。

2016/12/21

ネット字源説考訂5「跡」

「跡」の字源について


風船あられの漢字ブログ
>足跡が亦続く様子を漢字にしたものです。漢字の足し算では、足+亦(また)=跡(足また足。足の跡)です。意味は『足跡』、『跡』です。跡と同じ意味を示す漢字では、蹟(足重なる足。足の蹟)があります。同じ意味の漢字『蹟(セキ)』jiの影響を受けて『ヱキ』から『セキ』の発音になっています。

漢字の音符
>「足(あし)+亦(同じものがもう一つある)」 の会意形声。足と同じものがもう一つがある意で、足あとをいう。

OK辞典
>会意兼形声文字です(足+亦)。「胴体の象形と立ち止まる足の象形」(「足」の意味)と「人の両わきに点を加えた文字」(「わき」の意味だが、ここでは、「積み重ねる、あと」の意味)から、「積み重ねられた足あと」を意味する「跡」という漢字が成り立ちました。

《漢字語源語義辞典》
>「亦(音・イメージ記号)+足(限定符号)」を合わせた字。
常用漢字論
>迹は「亦エキ(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。……。限定符号を辵から足に替えて跡の字体も生まれた。


2016/12/20

ネット字源説考訂4「皆」「習」

「皆」の字源について


風船あられの漢字ブログ
>皆でする動作を漢字にしたものです。比と白を組み合わせた漢字です。足し算で表わすなら、比(ならぶ)+白(自分・人・鼻の原字)=皆(並んだ人。みな。皆)です。

漢字の音符
>金文は、「人人+曰エツ(いう)」の会意。ならんだ人がそろって物を言う形。みんなの意となる。篆文は、人人⇒比(右向きの二人)に変化し、現代字はさらに、曰エツ⇒白に変化した。

OK辞典
>会意文字です(比+白)。「人が2人並ぶ」象形と「頭の白い骨または、日光または、どんぐりの実」の象形(「しろ・告げる・告白」の意味)から、人が声をそろえて言う事を意味し、そこから、「みな」、「ともに」を意味する「皆」という漢字が成り立ちました。

《漢字語源語義辞典》
>「比(イメージ記号)+白(限定符号)」を合わせた字。……。「白」は「習」の下部と同じで、自の変形で、動作の意味領域に限定する符号である。
常用漢字論
>従来の字源説を見ると、『説文解字』などが「比+白」とするのが一般的。白は色の名ではなく、自の異形(異体字)で、動作などと関わる符号(限定符号)とされている。だから「比(イメージ記号)+白(限定符号)」と解析する。


『風船あられの漢字ブログ』『常用漢字論』は《説文》にならい「比+𦣹」、『OK辞典』は「比+白」、『漢字の音符』は「从+曰」。

また「習」の字源について


風船あられの漢字ブログ
>動作を繰り返す様子を表す会意文字です。漢字の足し算では、羽(はばたく)+白(動作)=習(同じ動作を繰り返す。習う。ならう)です。

漢字の音符
>甲骨文字は「羽+日」の形だが何を表しているか不明[甲骨文字小字典]。簡書(竹簡に書かれた文字の意で、戦国古文ともいう)は、「羽+曰エツ(口に出して言う)」 となり、篆文の下部も曰の変形。曰は口から口気のもれる形で、ものを言うこと。習は、羽を羽ばたかせるように何度も声にだして練習すること。ならう意味になる。

OK辞典
>会意文字です(羽(羽)+白(曰))。「重なりあう羽」の象形と「口と呼気(息)」の象形から繰り返し口にして「学ぶ、なれる」を意味する「習」という漢字が成り立ちました。

《漢字語源語義辞典》
>「比(イメージ記号)+白(限定符号)」を合わせた字。……。「白」は「習」の下部と同じで、自の変形で、動作の意味領域に限定する符号である。
常用漢字論
>習は「羽(イメージ記号)+白(限定符号)」と解析する。……。白は自の変形で、動作を示す限定符号として使われる。


『風船あられの漢字ブログ』『常用漢字論』は《説文》にならい「羽+𦣹」、『OK辞典』は「皆」と異なり「羽+曰」。
『漢字の音符』に「簡書(竹簡に書かれた文字の意で、戦国古文ともいう)」とあるが、戦国古文とは戦国時代に書かれた字のことであり、竹簡に書かれた文字という意味はない。

2016/12/19

ネット字源説考訂3「夏」

「夏」の字源について


風船あられの漢字ブログ
>神に仕える巫女(みこ)さんが踊る朝廷の美しい様子を表す象形文字です。

漢字の音符
>「頁(あたまを強調した人)+両手+夊(あし)」の象形。大きな頭に両手と夊(あし)をつけ、大きな人を表した字。
>季節の夏(なつ)の意味は仮借カシャ(当て字)の用法。戦国時代に起こった五行説で「なつ(夏)」は火カの行(火のような灼熱の性質を表す)に属しており、同じ発音の夏カを「なつ」に当てたものと思われる(私見)。

OK辞典
>会意文字です(頁+臼+夊)。「冠や面などをつけた人の頭」の象形と「両手と両足」の象形から、冠をつけて両手・両足を動かして、雅(みやび)やかに舞う夏祭りの舞の様(さま)を表し、そこから、「なつ」を意味する「夏」という漢字が成り立ちました。

《漢字語源語義辞典》
>衣冠をかぶった大きな人を描いた図形。
常用漢字論
>衣冠をかぶった大きな人の図形



161219_1.jpg
「夏」は甲骨文では「日+頁」で、太陽が人の上にあるさまである。「頁」は頭部を強調した人の象形で、面や冠をあらわさない。「臼」「夊」等は後に加えられたもの或いは訛変で生まれたもの。したがって「夏」の字源を(面や冠つけた)大きな人の象形とするのは誤り。
『漢字の音符』が現代日本漢字音にもとづいて「火」「夏」を同音とするのは誤り。『OK辞典』の篆書は創作。

2016/12/18

ネット字源説考訂2「易」「賜」「錫」

「易」の字源について


風船あられの漢字ブログ
>次々と横に移っていく様子を表す会意文字です。漢字の足し算では、日ノ(やもり・とかげ)+彡(もよう)=易(やもりが次々と横に移っていく。かわる。かわりやすい。易(やさ)しい)です(藤堂)。

漢字の音符
>甲骨文は雲間の太陽から光(彡)が差す形[甲骨文字小事典]。曲線が雲、半円が太陽、彡が日光で、穏やかな天候、および、曇りの意の天候用語。

OK辞典
>「とかげ」の象形で、とかげは光線具合でその色が変化するように見える事から「かわる」を意味する「易」という漢字が成り立ちました。

《漢字語源語義辞典》
>トカゲを描いた図形。
常用漢字論
>トカゲやヤモリを描いた


『風船あられの漢字ブログ』『OK辞典』『常用漢字論』は《説文》の「トカゲの象形」という説をそのまま踏襲。『漢字の音符』は《甲骨文字小字典》を引用。

2016/12/17

ネット字源説考訂1「異」「戴」「冀」「糞」

ネット字源

「異」について

風船あられの漢字ブログ

 別にもう一つの物を持つ様子を表す会意文字です(藤堂)。漢字の足し算は、田(頭)+共(両手)=異(もう一本の手をそえて物を持つ。転じて異なる)です。

漢字の音符

 人が鬼やらい(追儺ツイナ)にかぶる面をつけて、両手をあげているさまの象形。面をかぶると恐ろしい別人になるところから、「ことなる」の意を表わす。

OK辞典

 「人が鬼を追い払う際ににかぶる面をつけて両手をあげている」象形で、それをかぶると恐ろしい別人になる事から、「ことなる」、「普通でない」を意味する

常用漢字論

 まず左の手を挙げ、次に右の手を挙げるという連続した動きを表現するために、同時に両手を挙げる静止画面で読み取らせる仕掛けをしたのである。
 この意匠によって、Aのほかに別にそれと違ったBがあるというイメージを表すことができる。かくて「それとは違う、ことなる」という意味をもつ

ニコニコ大百科

 異形のものが両手を広げているところの象形。
 〔説文〕は畀+廾の会意とするが、甲骨文・金文は田の字のような頭の物が手を広げている形。
 異形のものが何かについては、猛獣の怪異である(〔説文解字注箋〕)とする説、翼と尾のあるものとする説(〔文源〕)、仮面をかぶった人とする説、鬼頭の神である説(白川静)などがある。白川は正面形が異、側身形が鬼・畏であるという。

Wiktionary

 象形文字。鬼の面をかぶって両手を挙げた形。

白川は、鬼あるいは鬼の仮面をつけた者とするが、『漢字の音符』や『OK辞典』は鬼をおいはらうのに使う面としている。『常用漢字論』は「なぜ両手を挙げているのかさっぱり分からない」として白川の説を否定するが、加納氏の説は逆になぜ頭の大きな人なのかさっぱり分からない。

2015/10/13

「豊」の字形演変2

つづき





豊
上は馬王堆漢墓帛書の字。
①《刑德》丙篇:“隆。
②《繆和》013:“其剖。
③《周易》017:“酆(豐)之虚盈。
④《老子》乙本247:“言以喪居之也。
⑤《戰國縱横家書》115:“殺人之母而不爲其子
⑥《養生方》063:“而以稱傅之。


豊
上は前漢早中期の簡牘の字。
①張家山簡《二年律令・秩律》443:“。”
②張家山簡《二年律令・秩律》443:“。”
③銀雀山簡壹《六韜・登啟》677:“文王才(在)。”
④張家山簡《奏讞書》177:“署能治
⑤銀雀山簡壹《晏子・六》:“未免乎危亂之禮(理)
⑥北京大學藏簡貳《老子》002:“為之而莫之應。
この頃は「豊」「豐」ともに上部が「由」のような字体が用いられる。晋系文字に近い。


豊
上は前漢晩期~後漢早期の簡牘の字。
①居延簡283.062:“□賢𤎩長亓
②居延簡505.005:“望泉𤎩長張病□□□。
③新居延簡ESC:37:“給候之𤎩長王六月食。
④武威簡《儀禮甲本・燕禮》2:“
⑤新居延簡E.P.T.51:147B:“府所下分,算書。
⑥武威簡《儀禮甲本・燕禮》1B
この頃は「豊」「豐」ともに上部が「曲」のような字体が用いられる。縦棒二本の上部は接している。「豆」の一画目が省筆されることがある。


豊
上は後漢~西晋代の隷書碑の字。
①封龍山頌(164)、②曹全碑(185)、③皇帝三臨辟雍碑(278)、④石門頌(148)、⑤乙瑛碑(153)、⑥皇帝三臨辟雍碑(278)
この時代には「豊」の字体が完全に定着している。ただ、乙瑛碑や韓仁銘の「禮」には「豐」に従う字体が使われている。

2015/10/12

「豊」の字形演変1

最初は字形を古いものから並べただけの記事だったけどいろいろ文章書いたら長くなった。



豊
①②は「豊」の甲骨文である。「豊」は「壴+玨」で、装飾のついた太鼓の象形である。
③④は「豐」の甲骨文である。「豐」は「壴」を意符、「亡」を声符とする形声文字である。
⑤は「壴+木」からなる字である。
《甲骨文字用研究・殷墟甲骨文已識字字表》
【豊】
 1.酒。
  花東501:“丁卜,今庚其乍,速丁飲。若。
  合31180:“其乍,又正,受又。
  合30725:“弜用茲
 2.地名。
  懷1444:“甲寅卜,乙王其田于以戍擒。
【豐】
 婦名。
  合17513:“壬寅帚示二屯。岳。
  合2798反:“…來。
【⿱林豈】
 地名。
  合8262反:“貞勿往

このほか「豊」は祭祀名としても使われている。また合27137や合30961に見える「豊庸」を楽器名とする説もある。
なお、甲骨文では意味と字形が対応している。


豊
上は殷~西周早期の金文の字。
①集成05.2625《豊作父丁鼎》:“王商(賞)宗庚貝二朋。
  「宗庚豊」は人名。
②集成08.4201《小臣宅𣪘》:“同公才(在)
  「豐」は地名。「酆」との関連が指摘されている。
③集成04.2152《豐公鼎》:“公□乍(作)尊彝。
④集成10.5346《豐卣》:“乍(作)父癸寶尊彝。
  「亡」に従う③④は作器者の人名に使われている。
⑤集成08.4261《天亡𣪘》:“王又(有)大豊(禮)王凡三方。
  「大禮」は儀礼。
⑥集成10.5357《𪬹季遽父卣》:“𪬹季遽父乍(作)姬寶尊彝。
  「豐姬」は人名。
豊
上は西周中期の金文の字。
⑦集成15.9455《長甶盉》:“穆王鄕(饗)豊(醴)
  「豊」は酒の意。
⑧近出468《叔豊簋》:“弔(叔)曰余啟(肇)乍(作)寶𣪘(簋)。
  西周金文に見られる「亡」に従う字はここで挙げたもの以外も全て人名にのみ使われている。
⑨集成01.247《𤼈鐘》:“豐〓𬉖〓。
  「豐豐𬉖𬉖」は擬声詞。もとは太鼓の音、引伸でゆたか・盛んなさまを表す。
⑩集成16.10175《史牆盤》“厚福。年。
  「豐」は「ゆたか」の意。
⑪集成06.3737《[⿱夂言]𣪘》:“[⿱夂言]乍(作)□寶𣪘(簋)。
  「豐□」は人名。
⑫集成08.4267《申𣪘蓋》:“官𤔲(司)人眔九[⿱戲皿]祝。
  「豐人」は地名。
151012_4.jpg
上は⑭を除き西周晩期の金文の字。⑭は春秋早期のもの。
⑬集成16.10176《散氏盤》:“𫪡父。
  「𫪡豐父」は人名。
⑭集成03.668《右戲仲夏父鬲》:“右戲中(仲)夏父乍(作)。”
  「豐鬲」は器名。「醴鬲」と読むという説もある。
⑮集成07.3923《豐丼叔𣪘》:“井(邢)弔(叔)乍(作)白(伯)姬尊𣪘(簋)。
  「豐邢叔」は人名。
⑯集成08.4280《元年師𬀈𣪘》:“備于大𠂇(左)官𤔲(司)還。
  「豐還」は地名。
⑰集成05.2546《輔伯𬌄父鼎》:“輔白(伯)𬌄父乍(作)孟㜏賸(媵)鼎。
  「豐孟㜏」は人名。
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上は「豊」に従う「醴」字と、「豐」に従う「𫿩」字。
⑱集成05.2807《大鼎》(周中):“王鄕(饗)
⑲集成15.9726《三年𤼈壺》(周中):“鄕(饗)
⑳集成15.9572《𬋺仲多壺》(周晩):“𬋺(唐)中(仲)大乍(作)壺。
㉑集成15.9656《伯公父壺蓋》(周晩):“白(伯)公父乍(作)弔(叔)姬壺。
㉒集成01.49《㪤狄鐘》(周中晩):“𫿩〓𬉖〓降。
㉓集成01.110《丼人𡚬鐘》(周晩):“𫿩〓𬉖〓。
西周金文では「豊」「豐」に字形差は見られない。


151012_6.jpg
上は楚系文字。
①曾侯乙墓竹簡75:“馭王車。
  初期の字体。上博六《天子建州》ではこの字体が用いられる。晋系文字もこの字体に近い。
②郭店楚簡《語叢一》16:“又(有)仁又(有)智,又(有)義又(有)豊(禮),又(有)聖又(有)善。
  上部が「𦥔」の字体。楚簡ではこの字体が一番多く見られる。
③郭店楚簡《語叢一》33:“豊(禮)生於牂,樂生於亳。
  上部が「臼」の字体。例は少ない。上博七《凡物流形》ではこの字体が用いられる。
④郭店楚簡《六德》26:“豊(禮)、樂,共也。
  上部が「艹」のような字体。郭店《性自命出》、郭店《六德》ではこの字体。
  また、郭店《緇衣》、上博一《緇衣》では上部が「井」のような字体が用いられている。
⑤上博楚簡二《容成氏》48:“、喬(鎬)之民䎽(聞)之,乃降文王。
  清華四《別卦》の「酆」の字形はこれに近い。
⑥上博楚簡三《周易》51:“九四:丌(其)坿(蔀),日中見斗,遇丌(其)𡰥(夷)宔(主),吉。
  包山楚簡にはこれに縦棒が入った字体が用いられている。
楚系文字では「豊」と「豐」は字形が区別されている。


1012-7.jpg
上は秦系文字。
①近出二1197《王七年上郡守疾戈》(318BC):“王七年,上郡守疾之造。□
②《西安相家巷遺址秦封泥的發掘》圖十六9:“
③詛楚文(戰晩):“使介老將之,以自救殹(也)。
④《秦陶文新編》1148(秦):“
⑤璽印集成・三一・GY-0002
⑥秦陶2977《秦封宗邑瓦書》(334BC):“取杜才(在)邱到潏水。
秦系文字では「豊」と「豐」は字形が区別されている。


2015/02/06

「且」の字源説の紹介

且

「且」の字源は俎(供物を置く台)の象形で、「俎」は脚を含めて描いたもの。
「宜」はその俎に「肉」を置いた形だが、戦国時代に「肉」がひとつになり大きく字体が変わった。

「且」は甲骨文金文では祖先の意味に用いられる。
春秋戦国時代に「示」を付した「祖」の字ができた。

2015/02/05

「万」に関する仮説の紹介

「万」は甲骨文では地名や祭名などにも用いられているが、主に舞に関する記述が多い。
合集28461「〼乎万舞。」
合集31033「叀万舞。 大吉」
合集31032「王其乎万舞〼 吉」
合集28180「叀万舞盂田,又雨。 吉」
「乎万舞」は「万」に「舞」をさせたということである。
よって「万」は「舞」をする人、またはその「舞」の名前なのではないかという説がある。

「萬」は甲骨文ではほとんど数詞であるが、後に似た用法がある。
《漢語大詞典》「萬」
│ 5.舞名。
│  《左傳‧莊公二十八年》:“楚令尹子元欲蠱文夫人,為館於其宮側,而振《萬》焉。”
│ 6.指跳《萬》舞。
│  《左傳‧隱公五年》:“九月,考仲子之宮,將《萬》焉。”
《漢語大詞典》「萬舞」
│ 1.古代的舞名。先是武舞,舞者手拿兵器;後是文舞,舞者手拿鳥羽和樂器。亦泛指舞蹈。
│  《詩‧邶風‧簡兮》:“簡兮簡兮,方將萬舞。”
│   毛傳:“以干羽為萬舞,用之宗廟山川。”

一方、春秋戦国時代の貨幣・璽印には「三万」「八万」「千万」のように「万」を数詞に使う用法が多く見られる。

これらのことから、同音(あるいは近音)異義の「万」(元明)と「萬」(元微)の二字が西周後~春秋頃に混用されたということが推測される。

万

「万」は何らかの象形文字であろうが、確証には至っていない。
「人」「元」「卩」等の字形に近いことから人に関係するのではないかといわれている。
なお、「賓」は「宀+万」あるいは「宀+万+止」、金文では「宀+万+貝」からなる。

2015/02/03

「丁」の字源説の紹介

「城」は「都市を囲む城壁」が本義だ。
《漢語大詞典》「城」
│ 1.都邑四周的墻垣。一般分兩重,裡面的叫城,外面的叫郭。城字單用時,多包含城與郭。城、郭對舉時只指城。
《漢語大字典》「城」
│ 1.都邑四周用作防守的墻垣,内稱城,外稱郭。如:城里。
《漢字源》「城」
│ 1.しろ。都市をめぐる城壁。
│  ▽中国では、日本とは違い、町全体を城壁で取り巻き、その中に住民をまとめて住まわせる。四方に城門がある。城外の街道沿いに発達した市街地には、さらに郭(外城)をめぐらして、外敵から守る。

「丁」はこの城壁の象形。という説。
丁

何琳儀《戰國古文字典 - 戰國文字聲系》「丁」
│ 丁,甲骨文作@,象城邑之形(參邑、國、𨛜、𠳵等字所从@旁)。城之初文。丁、成、城一字之孳乳。
何琳儀《戰國古文字典 - 戰國文字聲系》「成」
│ 成,甲骨文作@。从戌(象斧形),从丁(象城邑形),會城邑與軍械之意,城之初文。丁、成、城一字之分化。丁亦聲。
落合淳思《甲骨文字小字典》「丁」
│ 甲骨文字では、「@」の形が最も多く使われているのは城壁の意味であり、
│ 例えば、邑は城壁とそこに住む人を表す卩から成り、正は城壁に足を向ける形で征伐の意である。
│ したがって、丁は城壁の象形であると考えられる。