2017/04/08

甲骨文字について その2 卜辞

甲骨文の文章は卜辞とよばれる。占卜を行ったのちに甲骨に刻み込まれた文章である。

卜辞の構成

卜辞はある程度文章の様式が決まっており、主に前辞・命辞・占辞・験辞の4つの部分から構成される。《甲骨文合集》6057正の文章(一部)を例にあげる。なお、[]内は欠けていたり読めなくなっている字を補ったものである。
  1. 癸巳卜㱿貞旬亡𡆥王占曰㞢[求]其㞢來㛸气至五日丁酉允有來[㛸自]西……(以下略)
    《合集》6057正(典賓)


前辞:癸巳卜㱿貞

前辞は基本的に「干支卜某貞」の形式で書かれるが、一部が省略されることもある。「干支」は占卜を行った日付である。「某」の部分には貞人とよばれ、占卜を行った官人の名前が入る。なお、王自らが貞人の役割を担ったものもある。「貞」は以下(命辞)のように問うという動詞であり、命辞の一部分と捉える人もいる。
この文章では癸巳の日に㱿という人物が問うた、という意味になる。

命辞:旬亡𡆥

命辞は占卜における問いの内容が書かれる。
「旬」は十日をひとまとまりとした一期間のこと。「亡」は有る無しの無し。「𡆥」は「𠧞」「繇」の初文で「憂」に通じ災厄を意味する字。次の旬に災いがないか?という意味になる。

占辞:王占曰㞢求其㞢來㛸

占辞は貞人ではなく王が占卜の結果を判断した場合にその内容が書かれ、基本的に「王占曰」から始まる。
「㞢」は「有」の初文。「求」は「咎」に通じて災厄のこと。「㛸」は「囏(艱)」の異体字でやはり災厄のことだが、特に敵襲を意味する。王が占い敵襲があるだろうといったという意味になる。

験辞:气至五日丁酉允有來㛸自西

験辞では占卜ののち、実際にどうだったかが示される。多くの場合「允」の字が用いられ、実際に~だったという文章になっている。
「气」は「迄」に通じ、「气至~」で日が至るの意味。(癸巳の日から)五日後の丁酉の日になり本当に西から敵襲があった、という意味になる。



  1. 癸巳卜,㱿貞:旬亡𡆥(憂)?王占曰:㞢(有)[求(咎)]其㞢(有)來㛸(艱)。气(迄)至五日丁酉,允有來[㛸(艱)自]西。
    《合集》6057正(典賓)
前辞・命辞・占辞・験辞は必ずすべて揃っているわけではなく、むしろ全て揃っているものの方が少数である。「前辞+命辞」の文章が最も多いと思われる。
この他、占卜結果を記した「兆辞」が記されていることがある。「一告」「二告」「小告」のような類、「吉」「大吉」のような類などがある。一説に験辞から派生したものという。

占卜の種類

単貞

一つの事柄について一回の占卜を行うものである。
  1. 癸未卜,賓貞:今日尞?
    《合集》15556(賓一)

重貞

一つの事柄について二回以上繰り返し占卜を行うものである。一般的には同じ文章が並ぶ。
  1. 癸卯卜:叀伊酓?
    叀伊酓?
    《合集》32345(歷二)

対貞

一つの事柄について肯定否定の二つの占卜を行うものである。同じような文章が並ぶが、一方には「不」「弗」「勿」等の否定詞が加わっている。
  1. 辛亥卜,賓貞:灷[⿱冖止]化以王係?
    辛亥卜,賓貞:灷[⿱冖止]化弗其以王係?
    《合集》1100正(賓一)

選貞

二つ以上の並列した内容に対して占卜を行い、いずれかを選ぶものである。犠牲の数を問うものが多い。
  1. 尞牢坎二牢?
    尞牢坎三牢?
    《合集》15601(賓三)

補貞

一つの事柄について占卜を行ったのち、それに対してさらに具体的な内容の占卜を行うものである。
  1. 乙亥,貞:又(侑)伊尹?
    乙亥,貞:其又(侑)伊尹二牛?
    《合集》33694(歷二)

遞貞

ある日付(或いは期間)に対する占卜を行ったのち、その日付に再び別の日付に対する占卜を行う、というように連鎖的に占卜を行うものである。
  1. 庚戌卜,㱿:翌辛亥易日?
    辛亥卜,㱿:翌壬子不其易日?
    《英藏》1080(賓一)

以上の二つ以上を組み合わせたものも多い。

2017/04/06

甲骨文字について その1 字体構造

漢字が誕生した時期は、紀元前2000年頃と推定されるが、資料が少なく正確な時期は明らかでない。現在確認できるまとまった漢字資料のうち最も早いものは、殷代後期(紀元前1200年頃)の甲骨文である。当時は、亀甲・獣骨を利用した占卜が政治に利用されており、その記録が刻まれているのである。このほか竹簡あるいは木簡にも書写していたのであろうが、腐食により現在は残っていない。また陶磁器や青銅器にも文字が確認できるが、文章と呼べるほどのものは少ない。

甲骨文における字体構造

甲骨文の字体構造をいくつかに分類する。分類方法はいくらでもあるが、まず大きく独体字と合体字に分けられる。独体字はそれ以上分解できないもの、合体字は独体字・合体字を2つ以上組み合わせたものである。合体字における偏旁の役割には「形・音・義・示」の4種類が存在すると考える。形旁は字中においてその物体を直接表す。音旁は字音を表す。義旁は字義を表す。示旁は字中において記号的な役割を担う。この4つが組み合わさるので合体字は16種類に分類することができるが、いちいち羅列すると長いことや分類が難しいものもあるので、ここではそれを統合整理したものを示す。


独体象形字

表示物そのものを描いたものである。「人」「木」「月」などなど。
権威の象徴である鉞を描いて「王」を表すように、表示物を直接描かないものもある。
「小」は小さいもの、「三」は横棒3つ、これらは具体的に存在する物体ではなく抽象的なものを描いている。

合体象形字(会形字)

複数の象形字を組み合わせ情景を描くことで、複雑な事柄を表したものである。
例えば、人が木の下で休んでいるさまを描いて「休」、木がたくさん生えているさまを描いて「林」といった具合である。

会義字

複数の字を組み合わせて、その意味から事柄を表すものである。
例えば、「員」は鼎の上に球体が載っている象形ではなく、丸い物同士を組み合わせて「円」を表している。「赤」を表すのには大きい火を示している。

標示字

象形字の一部分を指し示すことによりその部位を表すものである。
「亦」は人の立ったさまである「大」の脇の部分を示している。「刃」は刀の刃部を丸で示している。

形声字

音を表す声符と意味を示す意符からなる字。
「雀」は「小」のうち鳥に関係するものを表し、これは意符が後から加えられたものと考えられる(標義形声字)。
一方「鳳」は鳥の象形に、あとから同音である「凡」が意味と関係なく加えられたものと考えられる(標音形声字)。

合文

二字以上からなる言葉をそのまま組み合わせて一字にしたもの。
先祖の名前や数字などに多い。「百」「千」などもこれに分類できよう。

2017/04/04

《金文通釋》卷三上と《商周青銅器銘文暨圖像集成》対照表


《通釋》《集成》《銘圖》器名備考
一二三10.0542324.13335匡卣
一二四08.0422712.05330師艅簋蓋(師艅𣪘)
a11.0599521.11794師艅尊
b05.0272305.02344師艅鼎
一二五05.0281705.02481師[⿱䢅止]鼎(師䢅鼎)
a05.0278105.02432南季鼎(庚季鼎)
b05.0281605.02480伯[⿱䢅止]鼎(伯䢅鼎)
一二六08.0425211.05281大師虘簋(大師虘𣪘)11.05280-05283
a09.0469213.06158大師虘豆
b01.00088-0008927.15269-15270虘鐘
c01.0009227.15273虘鐘
d07.0378509.04685𠭯孴妊簋(虘𣪘)
一二七08.0423512.05336諫簋(諫𣪘)
一二八08.04225-0422811.05244-05247無㠱簋(無㠱𣪘)
一二九08.0427212.05319望簋(望𣪘)
一三〇05.0281205.02477師望鼎
a15.0966122.12360師朢壺(師望壺)
*--望鼎偽銘?
b14.0909417.08576望爵
一三一08.04294-0429512.05350-05351揚簋(揚𣪘)
一三二01.0008227.15625單伯𪰖生鐘(單伯鐘)
a01.00104-0010527.15287-15288昊生鐘
b09.0467213.06129單𪰖生豆(單昊生豆)
一三三05.0282005.02487善鼎
一三四08.0434012.05398蔡簋(蔡𣪘)
一三五05.0283805.02515曶鼎(㸓鼎)
一三六15.0972822.12446曶壺蓋(㸓壺)
*14.0904117.08484史㸓爵
一三七15.09731-0973222.12451-12452頌壺
a
05.02827-0282905.02492-02494頌鼎
08.04332-0433912.05390-05397頌簋(頌𣪘)
一三八08.04229-0423611.05259-05267史頌簋(史頌𣪘)
a
05.02787-0278805.02443-02444史頌鼎
16.1022026.14920史頌匜
09.0448113.05766史頌簠
16.1009325.14429史頌盤
一三九16.1017625.14542散氏盤
a
04.0214903.01550夨王鼎蓋(夨王方鼎)
12.0645219.10587夨王觶
03.0087107.03251夨伯甗
b10.0539824.13307同卣
c
10.05300-0530124.13162-13163散伯卣24.13161
04.0202903.01440散姬鼎
07.03777-0378009.04652-04655散伯簋(散伯𣪘)
16.1019326.14875散伯匜
一四〇08.04279-0428212.05331-05334元年師𬀈簋(師𬀈𣪘)
一四一08.04216-0421811.05248-05250五年師𬀈簋(師𬀈𣪘)
a07.03997-0400010.04956-04959伯喜簋(伯喜𣪘)
*
07.03837-0383909.04719-04721伯喜父簋(伯喜父𣪘)
07.03793-0379610.04753-04756伯梁父簋(伯梁父𣪘)
15.0943726.14761伯庸父盉
03.00626-0062306.02831-02838伯庸父鬲
15.0942526.14743伯百父鎣
16.1007925.14399伯百父盤
16.1009625.14419荀侯盤(筍侯盤)
*08.0412311.05118妊小簋(妊小𣪘)
一四二05.0281005.02464鄂侯馭方鼎(噩侯鼎)
*07.03928-0393010.04828-04830鄂侯簋(噩侯𣪘)10.04831
*06.0357409.04305鄂叔簋(噩叔𣪘)
*06.0366909.04510鄂季奞父簋(噩季奞父𣪘)
*10.05325?噩侯弟[⿸厂晉]季卣09.04509
一四三08.0421511.05242𬹜簋(𬹜𣪘)
一四四09.0443512.05623虢仲盨蓋(虢仲盨)
a08.0420211.05227𣄰簋(何𣪘)
一四五08.0433112.05385乖伯簋(乖伯𣪘)
a
01.0001627.15125益公鐘([⿳八丶皿]公鐘)
08.0415311.05151𡚇簋(𡚇𣪘)
07.0406110.05050畢鮮簋(畢鮮𣪘)
*04.0173302.01077乖叔鼎
一四六16.1017025.14534走馬休盤(休盤)
a06.0360909.04421休簋(休𣪘)
一四七05.0279005.02447微䜌鼎
一四八05.0278605.02440康鼎
a
09.04400-0440112.05592-05593鄭丼叔康盨
03.0092607.03320鄭邢叔甗(鄭井叔甗)
03.0058006.02809鄭邢叔[⿰萑攵]父鬲(鄭井叔蒦父鬲)
03.0057906.02783鄭叔𬞓父鬲(鄭叔蒦父鬲)
01.00021-0002227.15138-15139鄭邢叔鐘(鄭井叔鐘)
*08.04160-0416111.05168-05169伯康簋(伯康𣪘)
一四九08.0432712.05389卯簋蓋(卯𣪘)
一五〇08.04270-0427112.05322-05323同簋(同𣪘)
a06.0370309.04553同𠂤簋(同𠂤𣪘)
b
07.0375409.04631仲師父簋(仲𠂤父𣪘)09.04630
06.0354509.04362仲師父簋(仲𠂤父𣪘)
一五一08.0428612.05337輔師𠭰簋(輔師𠭰𣪘)
一五二08.0431212.05364師𬱊簋(師𬱊𣪘)
一五三05.0281405.02478無叀鼎
一五四05.0282505.02490善夫山鼎
a03.0092807.03327叔碩父甗
05.0259604.02191叔碩父鼎
b07.03833-0383410.04781-04782伯賓父簋(伯賓父𣪘)
c16.1031313.06219乍父丁盂(□乍父盂)
d
16.1010825.14453伯考父盤
04.0250804.02053伯考父鼎
一五五01.00238-0024429.15584-15590虢叔旅鐘
a
03.00524-0052506.02720-02721虢叔鬲
09.04514-0451513.05813-05814虢叔簠13.05815
09.0449813.05789虢叔簠蓋(虢叔簠)
09.0438912.05567虢叔盨
11.0591421.11686虢叔尊
16.10306-1030713.06210-06211虢叔盂
04.0249204.01996虢叔大父鼎
*01.0003927.15156叔旅魚父鐘
一五六01.00145-0014828.15496-15499士父鐘
一五七01.00187-0019228.15522-15527梁其鐘
a05.02768-0277005.02414-02416梁其鼎誤為二器
b15.09716-0971722.12420-12421梁其壺
c08.0414711.05163善夫梁其簋(善夫梁其𣪘)11.05161-05165
d09.0444712.05652伯梁其盨12.05653
一五八05.0274505.02380函皇父鼎(圅皇父鼎)
a
16.1016425.14523函皇父盤(圅皇父盤)
08.04141-0414311.05144-05146函皇父簋(圅皇父𣪘)
05.0254804.02111函皇父鼎(圅皇父鼎)
16.1022526.14921函皇父匜(圅皇父匜)
b09.0449713.05788函交仲簠(圅交中簠)
c15.0944726.14775王仲皇父盉(王中皇父盉)
*01.0014328.15415鮮鐘
*04.0251604.02056會妘鼎(會㜏鼎)
一五九15.0970522.12416番匊生壺
一六〇08.0432612.05383番生簋蓋(番生𣪘)
一六一08.0424211.05273叔向父禹蓋(叔向父禹𣪘)
a07.03849-0385510.04792-04798叔向父蓋(叔向父𣪘)10.04799
一六二05.02833-0283405.02498-02499禹鼎
一六三05.0280505.02463南宫柳鼎(南宮柳鼎)
一六四08.0432312.05380敔簋(敔𣪘)
一六五08.0425711.05294弭伯師耤簋(弭伯𣪘)