「宰」
釋義
甲骨文
五期甲骨文に「宰丰」が数例見えるのみである。「宰」は職名、「丰」は人名である。- 名:職官名。
①王曰刞大乙[⿱隹示]于白麓𥑿宰丰。《合集》35501;黄一
②王易(賜)宰丰。《合補》11299反;黄一
金文
職官名。主に人名の前につけて「宰某」の形で用いられる。特に周中晩期に多く見られる冊命儀礼においては補佐を行い、銘文では「宰某右某,入門,立中廷。」のような文章が決まり文句になっている。- 名:職官名。
①王[⿱火女](光)宰甫貝五朋。宰甫卣,《銘圖》13303;商晩
②宰𣍧(胐)右乍(作)册吴,入門,立中廷。作册吴方彝蓋,《銘圖》13545;周中
③宰引右頌,入門,立中廷。頌壺,《銘圖》12451-12452;周晩
楚簡
楚簡においては「刀」を加えた異体字が多く用いられる。「宰尹」は《韓非子・八説》で料理人とされているが、楚簡ではそのような記述はみえない。- 名:職官。
①八月[⿱丙口](丙)戌之日,[⿸宰刂](宰)𥎵受[⿱几日](幾)。包山《受幾》36
②季𬨤(桓)子史(使)中(仲)弓爲[⿸宰刃](宰)。上博三《仲弓》1
③史(使)[⿱隹吕](雍)也從於[⿸宰刃](宰)夫之𨒥(後)。上博三《仲弓》1
- 「太宰」:職官名。王の側近。楚では地方官。
①大(太)𠹼(宰)之駵(騮)爲左驂。曾侯乙《乘馬》175
②七夫﹦(大夫)所[⿱歐巿]大(太)𠹼(宰)[⿰匹馬]﹦(匹馬)。曾侯乙《敺馬》210
③新都南陵大(太)宰䜌(欒)[⿸疒首](憂)。包山《疋獄》102
④[⿱𢽟貝]尹皆紿[⿰紿⿹𠃌一]丌(其)言以告大(太)[⿸宰刂](宰)。上博四《柬大王泊旱》19
⑤五(伍)員爲吴大(太)[⿸宰刂](宰)。清華貳《繫年》第十五章83
⑥奠(鄭)大(太)[⿸宰刂](宰)[⿰忄旂](欣)亦𨑓(起)𥛔(禍)於奠(鄭)。清華貳《繫年》第二十三章131
⑦楚恭(共)王又(有)𨚮(伯)州利(犁),以爲大(太)宰。清華叁《良臣》11 - 「宰尹」:職官名。地方に配置され、治獄(裁判)に関わっている。
①𠹼(宰)尹臣之騏爲右[⿰馬𤰇](服)。曾侯乙《乘馬》154
②𠹼(宰)尹臣之黄爲右[⿰馬𤰇](服)。曾侯乙《乘馬》155
③以[⿲彳乃攵][⿸宰刂](宰)尹[⿰弓𠓥]與〼。葛陵《卜筮祭禱》甲三356
④福昜(陽)[⿸宰刂](宰)尹之州里公婁毛受[[⿱几日](幾)]。包山《受幾》37 - 「少宰尹」:職官名。宰尹の副職。
①䢿(鄢)[⿱宀邑]夫﹦(大夫)命少[⿸宰刂](宰)尹鄩𫌳。包山《集箸言》157
②䢿(鄢)少宰尹𫑜〈鄩〉𫌳以此[⿱竹𠱾](志)至(致)命。包山《集箸言》157反
釋形
「宀」と「䇂」に従う。「䇂」は「乂」の初文で、草を刈る鎌の象形[1]。「宰」はおそらく「䇂」に「宀」を加えた形声字(樂郊)。下部の「䇂」は後代に近形の「辛」と同形となった。下部を「辛」として罪人と結びつける説があるが、誤りである。
釋詞
「宰」と「䇂(乂)」は{割断}義を共有する。- 乂,《説文》十二篇下《丿部》「芟艸也。」(266上)
- 宰,《慧琳音義》卷十八《十輪經》第三卷音義引《考聲》「大也,理也,制斷也。」(816下)
- 乂,《爾雅・釋詁》「治也。」
- 宰,《玉篇》卷十一《宀部》「治也,制也。」(209)
「宰」「䇂」「司」はしばしば互いに交替する。
- 《説文》六篇上《木部》「梓,楸也。从木,宰省聲。榟,或不省。」(111上)
- 《説文》十四篇下《辛部》「辭,說也。𤔲,籒文辭,从司。」(311上)、兮甲盤「王令甲政𬋹(司)成周亖(四)方責(積)。」(《銘圖》14539)
- 《龍龕》卷四《肉部》去聲「𦛛,俗。䏤,古。𦞤,今。」(413)
ただし、「宰」の声符である「䇂(乂)」と後代の「乂」とは音が異なっており、或いは「䇂(乂)」は異音同義の二詞同居字かもしれない。